二酸化硫黄(sulfur dioxide) SO2

哲猫

概要

気体を亜硫酸ガス(sulfurous acid gas)ともいう。火山ガスや鉱泉水などに少量含まれる。刺激臭のある有毒気体である。石油や石炭には多量の硫黄分が含まれているので、石油や石炭を燃焼すると発生するが、脱硫により石油から硫黄分を除去しているとされているので、ガソリンや灯油、重油の燃焼によっては二酸化硫黄は発生しないとされている。二酸化硫黄は、酸化剤(oxidant)によって酸化されると三酸化硫黄になり、水と反応して硫酸になるので、二酸化硫黄は、窒素酸化物などと同様に、酸性雨の原因物質となる。

分子

二酸化硫黄分子の形は、二酸化炭素分子(直線形)とは異なり、折れ曲がった形をしている(∠OSO=119°:これは正四面体角に近い)。尚、二酸化炭素が直線形になるのは、その中心に位置する炭素原子が非共有電子対を持たない為であるが、二酸化硫黄の場合は、中心に位置する硫黄原子に非共有電子対が存在する為である。

発生法

工業的には、石油の脱硫で得た硫黄や黄鉄鉱(pyrite : 主成分 FeS2)の燃焼で大量に製造されている。尚、二酸化硫黄が工業的に大量に製造されている目的は、二酸化硫黄から硫酸を製造する為である。
S + O2 → SO2
4FeS2 + 11O2 → 2Fe2O3 + 8SO2
尚、黄鉄鉱の主成分である二硫化鉄 FeS2は、Fe2+と二硫化物イオンS22-からなる。二硫化物イオンS22-は、硫黄と同族元素である酸素の過酸化物に於けるO22-(過酸化水素 H2O2 、過酸化バリウム BaO2に見られる)と同様のイオンであるが、硫黄の単体がS8とS-S結合が繋がってできているものになることから分かるように、S-S結合はO-O結合よりもずっと安定である。
FeS2が酸化されると、鉄もSも酸化されることになる。

実験室で二酸化硫黄を発生させる方法はいくつかある(発生する二酸化硫黄は有毒であるので、発生実験はドラフト内で行わなければならない)。その一つに、亜硫酸塩や亜硫酸水素塩に強酸を加える方法がある。これは、弱酸の塩 + 強酸 → 強酸の塩 + 弱酸 のタイプの酸塩基反応である。例えば、次の反応式で示されるように、亜硫酸ナトリウムや亜硫酸水素ナトリウムに希硫酸を注ぐと、弱酸である二酸化硫黄が遊離する。
Na2SO3 + H2SO4 → Na2SO4 + H2O + SO2
2NaHSO3 + H2SO4 → Na2SO4 + 2H2O + 2SO2
実験室で二酸化硫黄を発生させる別の方法としては、二酸化硫黄が濃硫酸の還元生成物であることを利用する方法がある。強力な酸化剤である熱濃硫酸は、次の半反応式で示されるように、相手物質を酸化すると自らは還元されることになるが、このときの還元生成物が二酸化硫黄となる場合が多い。
H2SO4 + 2H+ + 2e- → SO2 + 2H2O
従って、金属などの還元剤と熱濃硫酸との酸化還元反応を利用して、二酸化硫黄を発生させることができるのである。例えば、濃硫酸に銅片を加え、これを加熱すると、次の反応式で示されるように二酸化硫黄が発生する。
Cu + 2H2SO4 → CuSO4 + 2H2O + SO2

尚、二酸化硫黄はチオ硫酸ナトリウムと酸との反応や、亜硫酸水素ナトリウムの熱分解でも発生する。
Na2S2O3 + 2HCl → 2NaCl + S + SO2 + H2O
2NaHSO3 → Na2SO3 + SO2 + H2O

酸性

二酸化硫黄は水に良く溶け、次の反応式で記されるように、その水溶液は(弱)酸性を示す。
SO2 + H_2O → H+ + HSO3-    K1 = 1.1×10-2 mol/L
HSO3- → H+ + SO32-    K2 = 6.5×10-8 mol/L
尚、電離定数から分かるように、二酸化硫黄の水溶液(亜硫酸水溶液)は、弱酸の水溶液としては比較的強い酸性を示す。

尚、二酸化硫黄の水溶液を亜硫酸(sulfurous acid)と呼ぶが、二酸化硫黄は水溶液中では水和された形で存在し、H2SO3分子となって存在する訳ではないので注意する必要がある。従って、二酸化硫黄水溶液を亜硫酸(水溶液)と呼ぶのは、あくまでも便宜的なことである。

還元性

二酸化硫黄は、次の半反応式で記述できるように還元力を持ち、多くの酸化剤と酸化還元反応をする(この為、二酸化硫黄は漂白剤としても利用されている)。
SO2 + 2H2O → SO42- + 2e- + 4H+
例えば、過酸化水素水や硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液に二酸化硫黄を通すと、次の反応式で記されるように、二酸化硫黄が還元剤として働く酸化還元反応が起こる。
SO2 + H2O2 → H2SO4
2KMnO4 + 5SO2 + 2H2O → K2SO2 + 2MnSO4 + 2H2SO4
つまり、二酸化硫黄水溶液(亜硫酸水溶液)に硫化水素を通すと、強酸性の硫酸水溶液ができることになる。この場合、見た目には無色透明な水溶液であることに変化はないが、反応後の水溶液に塩化バリウム水溶液を加えると
Ba2+ + SO42- → BaSO4
により、硫酸バリウムの白色沈澱物ができ、硫酸バリウムの白色沈澱は、亜硫酸バリウムBaSO3と異なり、塩酸には溶けないので、二酸化硫黄と過酸化水素で硫酸が生成することが確認できる。
また、上記の反応式で示したように、過マンガン酸カリウム水溶液(赤紫色)に二酸化硫黄を通すと、硫酸酸性の硫酸マンガン水溶液になるので、色が殆ど無色になる(硫酸マンガンは淡赤色であるが、その水溶液の濃度が小さい場合は、ほぼ無色透明に見える)。

ただし、二酸化硫黄は酸化物であるから、還元剤に対しては、次の半反応式で記述できるように酸化剤として働くことになる。
SO2 + 4H+ + 4e- → S + 2H2O
従って、硫化水素水と二酸化硫黄の水溶液を混合すると
2H2S + SO2 → 3S + 2H2O
の反応が起こるので、混合水溶液は白濁することになる。

用途

二酸化硫黄は、食品の酸化防止剤や漂白剤として用いられる。例えば、ワインの酸化防止剤として二酸化硫黄は従来より用いられており、ドライフルーツの酸化防止剤(これにより見た目の綺麗さが保たれる)としても用いられている。